子育てに悩まない親はいません
子どもを育てるということは次世代の担い手を育てることであり、ひいては人類の将来にかかわる重大な仕事です。しかし、どちらかというと子育ては女性の本能的な仕事であたりまえのこと、女性は誰でも身ごもれば母性的になるものと長い間誤解されてきたような気がします。
最近のめざましい科学の発達は私たちに、子どもが持って生まれた遺伝因子が発現するか否かは、乳児期の愛着関係を結ぶ相手(しばしば母親)とのかかわり方によって決まるということを教えてくれました。すなわち、身近な養育者にどのように育てられたかがその人の人生を決めるといっても過言ではないのです。
残念なことにこのような大切な子育てについて学ぶ機会を私たちはほとんど与えられていません。これまでの子育ては「見よう見まね」で行われてきたので、自分の祖父母や両親があまり好ましくない子育てをしてきても、それがそのまま伝達されてきてしまったのです。
私も自分の子どもを育てていたときにはしばしば悩み、とまどうこともたくさんありました。「自分は母親のような叱り方を絶対にしない」と胸に誓っていても、気がついたら同じことをしている自分がいて、しばしば自己嫌悪に陥ったものです。
私の周りにいた友人たちも似たようなことで悩んでいました。おそらく子育てで悩まない親は一人もいないのではないかと思います。好ましくないとわかっていても好ましいモデルがなくてどうしていいかがわからないとか、余裕がないとつい、身体が覚えている自分がされたことをしてしまうということが起こるのです。
運よく私たちはクライエントの課題解決をお手伝いする臨床の仕事を通じて、1万を超えるケースからクライエントたちの現在の問題がどのような幼少期の体験が原因で生じてきたのか、またどのように関わってもらえたから大変なことを体験しても幼少期の体験がトラウマにならなかったかを学ぶことができました。
そしてどのように関わったら、親からしてもらえなかったことをある程度修復できるかも学ばされました。
そこで、皆さんから得たこれらの学びを皆さんと分かち合いたく、また意識的な子育てが世の中を変えると信じて、ワークショップやコラムを通じて、日本のお父さん、お母さんや子どもにかかわる方たちに発信していきたいと考えております。