愛されている実感がない子どもたち

前回紹介した近接分離の状態、つまり親子間に同調、共感のない状態に置かれた子どもは、心理的、情緒的に置き去りにされてしまっていて、親に“大切にされている” “見守られている” “理解されている” “共感してもらっている”という感覚を持つことができません。そして、自分の存在や欲求が常に無視されたように感じて不安と孤独感に満ちています。

このような体験をすると親子の愛着関係が築けず、親から物質的、経済的に良くしてもらっても“愛されている”という実感を持つことができなくなります。「虐待されたわけでもないし、何不自由なく育ててもらったから、親が私のことを“愛していた”と頭ではわかるけれど、愛されていた実感がない」といった話をしばしば聴きます。親は親なりに一生懸命やっているはずなのに、子どもが求めていることとずれていることから生じる残念なことです。

「できるだけ子どもと一緒にいるようにしたのに・・・」と思う親御さんもいらっしゃると思います。しかし、特に幼少期の子どもは自分に注目や関心が向けられているかどうかに非常に敏感です。つまり、親やお世話をする人が物理的にそばにいるかどうかだけではなく、子どものためにそこにいる「あり方」や「質」が重要なのです。そばに人がいないならあきらめもつくのですが、そばに人がいるのに自分に関心が向けられなかったり、適切に応えてもらえなかったり、無視をされることの方がもっと混乱し、傷つき、不安になるのです。

近接分離の状態が幼少期から日常的に長期間続くと、子どもは寄り添ってもらえていない悲しみや怒りを心に溜め、次第に周りの人と心を通わせることをしなくなってしまいます。“自分はいてもいなくてもよい存在だ”というように結論づけてしまうことさえあります。その感覚を「自分が透明人間みたい」「自分の中が空っぽ」「生きている実感がない」というふうに表現する人もいます。長い間このような感覚で生きてきた人の心の傷を癒すのはとても難しく、多くの時間やエネルギーを必要とします。

残念なことに、子どもの情緒に同調できていないことがこれほどまでに、子どもの自尊心を傷つけ、後の人生に影響するほどの大きい問題を作っているということはあまり知られていません。

次回は、近接分離を防ぐ子どもへの接し方をお伝えします。