『するまい』と思うことほどしてしまう
「なくて七癖」といいますが、やりたくなくてもついやってしまう「クセ」は誰にでもあるものです。
19世紀の精神科医として有名なフロイトは、「神経症的な症状をひとつ消すためには、4世代の時間がかかる」と言っています。
自分自身がクセに気づいて、そのクセをしないように意識すると、その子どもの世代もしなくなり、また次の世代も・・・。こんなふうに、4世代かかってクセが治るというのです。ただ、治る間に別の新しいクセができてしまうから、永遠にいたちごっこなのですが。
私はまったく親になった経験がないまま、しかも文化の違うアメリカで子どもを産んで育てました。大学院時代に「子どもの発達講座」を受けていた私は、子どもの発達過程で何が起こるのか、どういうことに注意しなければならないかを学んでいました。
だから、頭ではわかっていたつもりでいました。
でも残念ながら、頭でわかっていること実際にできることとはギャップがあります。
誰もが「わかっちゃいるけど、やめられない」んです。
「やらないようにしよう」と思うことで、その人の意識は過去の悪いところにばかり焦点が当たってしまう。だから、知らないうちにそこに近づいてやってしまう。やってしまってから「しまった」と気づくのです。
そして、私たちは、自分がされたことを、しないようにするあまりにやってしまいます。
私は幼いころよく母に、「あんたは怠け者だね」とさんざん言われ、つらい思いをしました。だから、自分が親になったとき、「口が曲がっても自分の子どもにそれだけは言うまい」と思っていました。
でも、自分の子どもがサボっているのを見ると、言わないと誓っていたはずのあの言葉を言ってしまっているのです。ものすごく自己嫌悪に陥りました。「わかっているのになぜやってしまったんだろう」と。
言うまいとするから、言ってしまうのです。
「こうしない」に意識の焦点が当たっている限り、「こういう風にしよう」という新しい考えは生まれません。
「こうしない」ではなく、「どうしよう」と考えるようにしましょう。
「こうしてはいけない」ではなく、「どうしたらよいだろう」と考えましょう。
そうすれば、おのずと新しい方向に向かって進むことができます。
(田中万里子「子どもの心育てワークショップ」より)