「子どもの前ではけんかをしない」は無意味です
よく「子どもの前ではけんかしません」というご夫婦がいらっしゃいます。
親のけんかを子どもに見せることは、子どもを不安にさせるから、ということのようです。
確かに子どもの前でののしり合いはしていないかもしれないけれど、
いわゆる「冷戦」状態だったらどうでしょう。
言語の能力がまだ十分に発達していない子どもは家の中の不穏な雰囲気を敏感に感じ取るものです。しかも、子どもって自分中心の目線でものを見るので、「パパとママがけんかしているのは自分のせいだ」と思ってしまうのです。気をつけないと、親がうまく隠そうとしていても、親たちの意図とは相反して全然異なる意味を子どもは考え、一人で苦しんでしまうことが起こります。
お母さんが憂鬱なら子どもも憂鬱になります。
赤ちゃんが病気のときはお母さんも憂鬱になりますよね。
親と子の気分は、たがいに影響しあうものなのです。
というのは、私たちの脳には生来、「ミラーニューロン」という相手の状態を映し出す神経細胞があります。ミラーニューロンがあるために、子どもにも、親が感じていることが伝わってしまうのです。
だから、「言葉に出していないから大丈夫!」というのは大きな間違いです。口に出さずとも、私たちは全身でコミュニケーションしているのです。顔に出ていることはミラーニューロンを通して子どもに伝わります。また身体で起こっている情動は波動として伝わってしまうのです。
夫婦の人間関係がうまく行っている家庭だと、帰宅したときに一歩入ると家のなかにいい雰囲気が漂っているものです。逆に、何かトラブルがあると、ドアを開けた途端に、「あれ?何かあったな」と感じます。私たちには皆、それを感じる能力があります。大人にも、子どもたちにも。
不穏な空気を漂わせながら、下手に子どもに隠しだてするくらいなら、「ママはいま、こういうことで怒っていて、それをパパに話さないといけないの」とちゃんと子どもに話してあげましょう。その方が、見えていることと、感じていることが一致するので、子どもを安心させます。また問題があるときはお互いの気持ちを分かち合い、話し合うという姿勢を子どもに教えることができます。
(田中万里子「子どもの心育てワークショップ」より)