「転校生」のこころの中

今年も学校の新年度が近づいてきました。
この時期になるとふと心に浮かぶのはA君の言葉に代表される転校生たちの気持ちです。

“ホントウニ、ホントウニ 大変だったよ。やっと慣れたのに、また引っ越さなければならないんだって!!!”

会社から転勤の発令があり、父親は仕事の引き継ぎや役所の手続きに追われ、母親は引っ越しの準備と、新しいコミュニティでの生活への不安で、手いっぱいです。子どものことといったら、どの学校に転校させるかを決めることが一大関心事となっています。

こんな時、大人はしばしば「子どもは順応性があるから大丈夫」と勝手に思い込み、子どもの様子に注意を払うことをしません。そのため、子どもの心は置き去りにされてしまうのです。

転校が子どもの心に与える影響はどんなものでしょうか? 
子どもにとって自分の住み慣れた家やコミュニティは自分の親とほぼ同等の安全・安心の象徴なのです。特に自分が生まれ育ってきた家ならばなおさらです。そこを離れることは耐えがたく、とても不安で心配なことなのです。

しかし、子どもは親の不安定な気持ちを敏感に感じ取り、親に迷惑や心配をかけてはいけないと自分の気持ちを胸にしまい込んでいます。胸の中はさよならを言わなければいけない大好きな先生、仲良しの友達に対するせつない気持ちや、親の都合でさよならを余儀なくさせられることに対する怒りも抱え込んでいるのです。

さらに新しい土地で、友達が今のようにできるかどうかという心配も重なります。不安な気持ちを孤独の中でじっと気持ちを押し殺しながら、一人で耐えているのです。新しい土地、方言または言葉、文化の差、人種の差…子どもにとっては、変化の要素が多ければ多いほど、自分の土台を失ったように感じるものです。

転校先では、もうすでにできあがっている仲間のグループの輪になかなか入り込めない雰囲気を感じています。受け入れてもらえないのではないかという不安が強ければ強いほど、なかなか新しいグループに入って行けず、ただ固まってみている傍観者になりがちなのです。こんな経験をした子どもは、自分の居場所のなさを感じながら、誰かが受け入れてくれるのを待つ姿勢で生きていくようになるのです。

一方、ある程度積極性がある子の場合、なんとか受け入れてもらおうとがんばります。このような子は必要以上に自分を演出し、みんなに合わせたり、常におもしろいことをいってクラスの道化師になったりします。またはただ、ただ頑張って、トップの成績をめざしたり、スポーツにたけたりすることで、文句なしに認めてもらう努力をします。そうしているうちに自分本来の姿を見失い、自分が楽しむためでなく、人に認められることに必死に生きることが人生を貫く処世術として身につくようになります。

転校を何回も体験した場合は、さらに大きな衝撃体験となります。子どもは、一般な「トラウマ」と同じ現象を体験することになります。私たちはこれを“転校トラウマ”と名づけています。

転校トラウマを体験した人は自分が転校した季節になると無意識のうちに体の状態がそのときの状態に引き戻されるので、心理的にゆううつになり、不安定になりがちです。また、子どものころの体験の影響は大きくなってからも続きます。転校時のような、環境変化や人間関係の変化に直面すると、精神的に不安定になったり、人の輪への入りにくさを感じるようにもなります。また頑張って受け入れてもらった子は必要以上に自分をアピールし、自分がいっぱいいっぱいな時でも頼まれれば困難な仕事を引き受けてしまうような、性格的な問題を抱えて生きていくようになることも少なくありません。
このように、転校が子どもの心に与える影響について大人がよく理解し、その子の不安な気持ちに寄り添ってあげてください。
次回は、転校トラウマを作らないためにはどうしたらよいか、子どもの不安にどのように寄り添うかについて具体的にお伝えします。