目次

第1回 ソーシャルワーカーとしての日々

第2回 仙台で初めての講座を開く

第3回 大学教授になる

第4回 心と身体の関係

第5回 学ぶことは、体験すること

 

第5回 学ぶことは、体験すること

 

 

「共感」の重要性に気づく

 
 
サンマテオの自宅と日本とを定期的に往復して、心理療法POMRを教えているうちに、現・株式会社InnerCore9 Japan代表の白石孝子との出会いがありました。
 
 
田中
白石さんは大手企業の会社員でしたが、社員の創造力や感性を高めるために、カウンセリングに興味があるので勉強したい、ということで私の講座に参加していました。また、一生涯できるスキルを身につけたいという思いもあったようです。白石さんは現在もそうですが、当時からとても勉強熱心で、自分の面接演習の録音や録画をすべて書き起こししては振り返って細かくチェックをし、わからないことはすぐに調べたり、スーパーバイズを受けたりしていました。脳科学への興味も強く、その分野も深く勉強していました。脳科学がどんどん変わり、進化している時だったので、新しい知識も加えてセラピーに当たっていたようです。その頃、私の周囲には彼女ほどに興味を持って、私の仕事に関わってくれる人はいませんでした。そこで私のほうから「あなたと一緒に仕事をしたい」と話をしたら、勤めていた会社を退職して、私と共に働いてくれることになりました。
 
 
InnerCore9では「心からの共感」を教えていますが、その気づきを得たきっかけは?
 
 
田中
白石さんは定期的に渡米して、私のもとに勉強に来ていました。あるとき滞在中に白石さんと私と夫の三人でアリゾナ州のセドナへ旅行しました。セドナで私と白石さんはさまざまなことを話し合ったり、本を読んだりして充実した時間を過ごしていました。その旅行中に二人とも「感情」と「共感」の重要性に気づいたのです。
 白石さんは日本に戻ったあと、共感に関するワークショップに出たり、私は本を読んだりして、二人がそれぞれ共感や感情について学びました。私たちが好まずとも、感情は自然に体で起こってくる身体生理的な現象であること、そしてそれにつけられた名称が喜怒哀楽の感情であることを学びました。そもそも感情が起こるのは自分たちのニーズが満たされていないからであり、それ自体に善悪はないということもわかりました。そして自分の感情はコントロールするべきものではなく、どのようなニーズが満たされないために引き起こされているかを調べる作業をすることによって、自分のために有効に使うことが大切だとわかってきたのです。当時、すでに共感や感情について教えている人や組織がありましたが、調べてみると感情を頭でとらえがちだと感じていました。私たちはこれまでの臨床体験を経て、感情は頭で考えるものではなく “体で感じる”ものだと考えています。
 
 
「体で感じる共感」について、もう少し詳しく教えてください。
 
 
田中
そうですね。よくあることなのですが、カウンセリングを習っている人たちは往々にして文言集を作ろうとします。「こういう時はこういう風に言いましょう」と。でも、それは間違いです。なぜならクライエントが体験している感情はその人の過去の体験のデータベースによって引き起こされてくるものなので、同じ体験であってもその人によってどう感じとるかが異なります。クライエントの気持ちを本当に理解するためには、まずその人の感じている感情を感じ取り、それが引き起こされる状況を理解して共感する必要があるのです。
 感情がその人固有のものであること、真の共感の大事さに気づくと、頭で考える共感は表面的なものでしかないことがわかります。私たちは「共感」のために自分自身の感情を感じる回路を使っているので、自分の感情をブロックしている人は真の共感はできません。  私たちの多くは育っていく過程で、感情をネガティブに受け止め、コントロールすべきものと教えられがちです。そうなると感情を避けて生きていく傾向があります。今まで他の人から共感されていなかった人は、浅いレベルの頭で考えられた認知的共感でも「共感してもらった」と感動します。しかし、あまりのつらさに長い間自分の気持ちにフタをして生きてきたために、深いところで癒しの必要な人にはその共感は届きません。
 そういう人の心が動かされるには、母親と一体感を感じていた子どもの時に“自分を丸ごと受け入れてわかってもらっている、心から安心できる”という深い感覚が自然に沸き起こってくる体験が必要なのです。
このことに考えが及んだ時、それまで教えていた心理療法POMRが感情の操作になりがちではないかという疑問を感じました。人が必要な深い癒しを可能とするためには体で感じられるレベルに共感を落とし込み、クライエントと共に「体験」をしなければならないとわかったのです。
 人は真の共感を体験すると、心の安定をとりもどし、自分の中にある答えを自分で見つけだすことができるようになるのです。そこで私は従来のPOMRの方法から離れることにしました。そして、真の共感をベースとして療法を実践する新しい組織としてInnerCore9を作り、心理療法CoreAccess9を白石さんと一緒に始めたのです。

(次回に続きます)