目次

第1回 ソーシャルワーカーとしての日々

第2回 仙台で初めての講座を開く

第3回 大学教授になる

第4回 心と身体の関係

第5回 学ぶことは、体験すること

第6回 私たちの仕事にリタイアはない

 

第6回 私たちの仕事にリタイアはない

 

 

心理療法POMRからCoreAccess9へ

 
 
田中先生が創り上げた心理療法POMRをご自身で否定したことが、現在の心理療法CoreAccess9の開発につながりました。ここからは、共同開発されたセラピスト・白石孝子さんにも伺います。
CoreAccess9はどのような経緯で開発されたのですか。
 
 
白石
当時、POMRを実践していてもうまくトラウマ解消がスムーズにいかないケースがいくつか出てきました。POMRは情動記憶、すなわちトラウマの解消です。この情動記憶を解消するための資源を持っている人と持ってない人がいるのです。なぜ、解消できないのか、感情と情動にフォーカスして研究しているうちに、愛着理論と発達理論に行きつきました。愛着のベースがその人にあるかないかで大きな違いがありました。愛着と感情を深く勉強することで、「共感力」が生まれたのです。言語化できない情動レベルをどのように扱うのか、POMRでは限界があり内容を大きく変えたので、名称も新たに「CoreAccess9」としました。
POMRは理論や手法がきちんとありました。一方、CoreAccess9では手法ありきではなく、一人ひとりの人間の今の状態に寄り沿っていくこと、その人に何が起こっていてどうしてそれが起こっているのか、その見方と理解の仕方を丁寧に教えています。感情への理解と情動記憶の扱いを深く、より丁寧に行います。
 
 
田中
クライエントの感情の裏にある深い意味、どういう欲求が満たされていないのかを見ていきます。身体生理反応としての感情を理解できると、一般社会にある「感情は抑えなければいけないもの」という考えもなくなります。
 
 
白石
CoreAccess9は感覚的なもので、手法としてのプロトコールがあるわけではありません。「これです」と明確に言語化できないもの、“アート”と同じです。ですからベースには理論も理屈も科学もあるのですが、演習を通じてその時々の人の中で起こっていることにどう寄り添い、どう理解し、どう援助するかを学び合います。一方的に教えるというより、気づき合っているという感じです。
 
 
田中
これを体得してもらうには、繰り返し演習を行うしか途はありません。自身で体験して、「このようにすればクライアントの抱える問題がとけるんだ」と、感覚を得ることが大切です。私たちが教えているのは、体験であり、感覚であり、自分自身の在り方です。
InnerCore9では実際に「体験すること」を重視しています。ですので、大きな会場での講座や大人数を対象に教えることは困難です。少人数で、時間をかけて学べる環境を作っています。学ぶ方には多くの時間と自分を知るための自己投資が必要になります。自分を見る時間、自分を癒す時間、自分に向き合う時間を十分に取らなければなりません。丸1日を使って自分と向き合う「感情力」という講座は、人気があり、リピーターも多い講座です。
 
 
白石
私も15年間、田中先生と皆さんと共に演習をしてきていますが、毎回新たな発見があり、受講生の皆さんから教えられることがたくさんあります。それがCoreAccess9の進化にもつながっています。カウンセリングがクライエントとセラピスト、お互いに心地よいものであってほしい。誰かのために苦労する、消耗するだけの援助はして欲しくありません。カウンセリングは響き合う、双方向のものです。セラピストがクライエントと共に学び、成長し合うものだと思います。
 
 
田中
大事なことは、「この人のために、私がここにしっかりといてあげよう」という心、相手のためにいてあげること、その在り方です。
 
 
田中
 
 
 

常に謙虚であること

 
 
現在、POMRのスキルは全く使っていないのですか?
 
 
田中
POMRの理論の多くは今も通用しますが、手法の多くは今は使っていません。私は実践してみて効果が現れなかったら、そのやり方はやめてしまった方がいい、と考えています。どれだけ実践し、教えていても、限界に気づいたら修正して使い続けるより別の方法を採用します。この考えは一般の人々には理解されにくいかもしれませんが…。CoreAccess9を始めてからは教え方も180度変わりました。
 
 
田中先生が講師として、セラピストとして心がけていることはなんですか?
 
 
田中
以前、私がデモンストレーションを行うと、参加者が見ている目の前でクライエントの表情が大きく変わるので「神業だ」と騒がれたことがありました。私は、そういう教え方はもうしたくありません。私の喜びは人からもてはやされ、崇められることではなく、相手の方が回復できたこと、そして、それを援助できたことです。セラピストが謙虚であることを忘れ、自身に驕りがあると十分な仕事を果たせません。  私が師事した先生方は、世界的にも一流の方々だったのですが、いずれも気さくな方で、威張ることはありませんでした。どんなに偉い先生でも「ちょっとわからないんだ。何かいいアイデアはない?」と気軽に私たちに聞いてきます。私たちの仕事は常に暗中模索で調べていくのですから、わからないこと、見えないことがたくさんあります。ですから、互いに正直に聞くことができ、話すことができる関係はとても大事です。
 
 
田中
 
 
 

私たちの仕事に引退(リタイアメント)はない

 
 
長年、このお仕事を続けられている原動力はなんでしょう?
 
 
田中
人とのつながり、絆でしょうか。1980年に講演のため初めて来日して以来、古い方では30~40年とお付き合いさせていただいています。そのようなベテランの方々が今もなお学びに来られ、お会いできることが私の喜びです。私が皆さんに何かをしてあげているということではなく、私たちのほうがいろいろなものをもらっています。また、新しい受講生の皆さんにお会いできることもうれしいことです。人と交わって学ぶことはワンウェイの関係ではありません。私が教えているだけではなく、新しい方々が学ぶ姿を見ることが、私にとっても学びになっています。私たちと受講者の方は常にツーウェイの関係です。  原動力と言えば、健康には気を遣っています。食事や栄養面では糖質を避けたり、サプリメントを摂ったり。毎日、YouTubeで見ながら日本のラジオ体操をしています。そして海辺や山を歩く。庭仕事が好きなので、体を動かすことは多いです。人と会って、おしゃべりすることも好きですね(笑)。
 
 
今後の活動、これからのご自身についてお聞かせください。
 
 
田中
1回しか与えられていない命をどう生きるか―――それが常に人生の課題として自分の中にありました。私は現在、仕事でもプライベートでも自分のやりたいことができ、時間も自分の好きなように使えているのでとてもハッピーです。リタイアして余生を過ごすなんて考えてもいません。今まで多くのことを体験し、ようやくさまざまなことがわかってきました。このまま終わらせてしまうことはありえないことです。 白石さんとも最近話しているのですが、私たちの仕事にはリタイアはありません。 仕事は私自身の楽しみでもあります。これからも、日本の多くの人それぞれが本来持つ能力や才能を活かしてあげられるように、活動していきたいと思っています。

(了)