私たちは長年のカウンセリング(パーソナルセッション)を通じて、多くの方々の悩みや苦しみを聞いてきました。

例えば、「子ども(部下)が言うことを聞いてくれない」「上司の前では言いたいことが言えない」「(カウンセラーとして)クライエントの話をニュートラルに聴けないときがある」「頭ではやれるはずだと思うのに、いざとなるとできない」など。

様々な臨床の場を通じて、私たちは、これらの課題の根本的な原因は自分自身の「感情」にあることに気づきました。

問題の解決は自分の「感情」を見つめ、理解することから始まります。

感情とはなんでしょう。自分の感情を理解するとはどのようなことでしょう。そして感情と「共感力」の関係とは。

私たちの心理的アプローチの基礎となる「感情」についてInnerCore9代表・田中万里子がご説明します。

田中万里子

InnerCore9 代表
サンフランシスコ州立大学カウンセリング学科名誉教授
田中万里子 Ph.D

「感情」と言われると“自分の心の動き”と理解しているのですが、InnerCore9では「感情」をどのように考えているのですか?

「感情」のベースは、赤ちゃんのときから体験する「快」と「不快」です。

「快」には“好き”“嬉しい”“楽しい”などがあり、「不快」には“嫌い”“怒り”“不安”などがあります。そして、これらの快と不快の体験は私たちの記憶の中に蓄えられています。

さらに気をつけて調べてみるとそれらの感情に先立ち、身体で反応が起こっていることがわかりました。

「快」のときは身体は開き、ゆるみ、そして温かくなり、反対に「不快」のときは身体は閉じ、硬くなり、冷たくなります。この身体生理反応を“情動反応”と言います。

この反応は感情が認識されるよりも先に身体で起こるので、仮に「不快」な反応を理性的になくそうとしても身体はすでに反応しているのです。

それなのに私たちはこの身体からの信号を無視したり、他にそらそうとしがちです。これが様々な問題や病気のもとになっているのです。

感情の「快」と「不快」は何によって引き起こされるのですか?

感情の裏には「欲求」や「期待」、「想定」があります。自分の欲求が満たされれば「快」になり、満たされないと「不快」になります。

人が不快を感じるとその体の感じ自体が不快なので何とかしたくて、人のせいにしたり、相手を批判したり、あるいは罵倒したり愚痴や文句を言ったりします。

または、相手を無視する態度に出たりもします。その結果、しばしば人間関係の問題をつくるのです。

このような大人気ない態度に出るのが嫌な場合は、自分の気持を抑え込み、我慢します。

これを続けると、さまざまな身体症状が出て、ときにはうつになったり、病気になったりします。

このような感情が起こった際の不適切な対処行動が問題を起こすので、私たちは感情自体を悪者としがちなのですしかし、もともと不快感情は自分を危険から守り、欲求を満たすためにある大切なものです。

自分の欲求を満たすためにはどうしたらよいかを考えたり、相手とどのように折り合ってお互いの欲求を満たすかを考えたり、話し合ったりすることが課題となってくるのです。

田中万里子
同じような出来事があっても過剰に反応する人と、 しない人がいるのはどうしてですか?

外からの刺激に対する反応はひとそれぞれです。

情緒の安定のベースは養育者との愛着関係からつくられると言われています。

また、私たちの色々な情動体験は記憶に残るので、似たことが起こるとそのときの情動が再現されて、快体験はくりかえし、不快体験は回避するようになるのです。

これが二人の人が同じような状況においても必ずしも同じ感情を体験しないしくみです。私たちの感情は個人の体験記憶のデータベースに左右されているのです。

特に、その人にとって衝撃的な出来事が起こって圧倒されるような体験をしたときに、その感情が適切に扱われて処理されないとそのときの情動が記憶に強く残り、似たことが起こったときに過剰に反応しやすくなります。

感情を安定させるにはどうしたらいいのでしょう?

私たちが平常心でいるときは感情と理性が協調してはたらき、バランスがとれています。

しかし、過剰に不快な感情が起こり暴走すると、理性が正常に機能しなくなります。その人の内面はひどく動揺し、かっとなったり、頭が真っ白になったり、支離滅裂なことを言ったりします。

そのためにさまざまな問題が引き起こされるのです。そんなとき人は感情を抑え込んで理性的であろうとしがちのですが、感情は自分自身を危険から守るために発生しているので、抑え込もうとするともっと激しく危険を知らせようとします。

こうなると自分一人ではなかなか自分の心の安定を取り戻すことはできません。

安全感や情動の安定を取り戻すには、その気持ちをわかって「共感的」につきあってくれる第三者の助けが必要です。

情動反応が落ち着くことで理性が機能するようになり、自ら問題の解決策を見つけることができるようになるのです。

田中万里子
他人の話を聞いてもなかなか共感できません。
また、自分も共感されているような実感がないのですが…。

一般的に「共感」は他者に与えたり、与えられたりするものと考えがちですが、実は2種類あります。

ひとつは自分との対話から来る自分への共感。もうひとつは他者との対話から生まれる他者への共感。

私たちは自分の感情を感じて理解するしくみを使って、他の人の感情を感じとり、理解することができます。

自分の感情を抑制しよう、コントロールしようとしている人は、自分の感情がわからなくなってしまい、他人の感情もわからないので「共感」することができません。

「共感」するためには日頃から自分の感情を感じて理解できるようにトレーニングすることが大事です。

なぜ動揺したり、怒ったり、不安になったり、悲しくなったりしたのか、自分で自分のことがわかるようになれば、自ら安全感を取り戻すことができます。

そして、自分の感情を理解することができるようになれば他者の感情も理解でき、共感できるようになります。

InnerCore9で言う「真の共感」とは何ですか?

他者に対する「共感」には相手の感情を推測し、想像する“考える認知的共感”と相手の感情と共鳴する“感じる情動的共感”があります。

わたしたちの考える“真の共感”とはこの両者にまたがり、相手の情動を身体で感じ取って、その気持ちを頭で認知的に理解する共感です。

これにより相手は安心感を得られ、自分から自分に最も適切な答えを見つけることができるのです。

また、“真の共感”を受けた人は気持ちが落ち着き、気分もよくなります。そして他者に対しても気持ちよく接することができ、さらにその幸福感は連鎖して拡散していきます。

“真の共感”が広がることで社会全体がよくなることをわたしたちは願っています。

田中万里子
「共感力講座」ではどんなことを学ぶのですか?

わたしたちの「共感力講座」では、まず、感情が起こるしくみ、役割、その適切な扱い方や共感についての理論を学び、自分と対話し、自分に共感するための「感情力」を培ってもらいます。

それが真の共感ができるようになる第一歩だからです。

自分への共感ができるようになって初めて他者に対しても共感的になることができ、他者とのコミュニケーションを深めることができるのです

「共感力講座」を学ぶところはどのような環境ですか?

自転車の乗り方のビデオを何万回見ても自転車に乗れるようにはならないように、共感力も知識を得ただけでは身につくものではありません。

実際に自分で何度も繰り返しやってみて、自分のあり方を振り返ったり相手からのフィードバックを受け、またやってみる、という実践が大事です。

そこでInnerCore9では、受講者の皆さんが気軽に集い、落ち着いた空間で自分の感情に向き合ったり、人の心に寄り添ったりすることができる環境つくりにも配慮をしています。

安心できる空間があり、ともに学ぶ仲間がいる、ということも繊細な感情を扱う上で欠かせない要素だと考えています。