愛着関係と心の発達講座(第1回、2017年4月29日開催)にて、受講された方からいただいたご質問に田中万里子がお答えします。
※プライバシー保護のため、一般的な内容に修正した形でお答えしています。ご了承ください。

質問1:「子どもに対する無条件の愛について」
関心を示すだけで十分でしょうか。親から何も期待されていないように感じたりしないのでしょうか。

無条件の愛を知るために、まずは「条件付きの愛」(問題を抱えた人の多くがこれで育っています)とは何かを知る必要があります。「・・・なら(例:いい子でいれば)愛される」「・・・なら認めてもらえる」「・・・な自分でいれば受け入れてもらえる」というように、親や大人の期待する条件を満たせばもらえる愛が「条件付きの愛」です。条件付きの愛で育つと、まわりの人の期待を満たさないと自分の存在は受け入れてもらえない、いる価値がない、という自分自身の存在に対する漠然とした不安を大人になっても持ち続けることになります。
無条件の愛とは、子どもがどんな状態でもその存在を受け入れて大事に思っている、子どもがどんな感情のときも寄り添い、心がともにいる、という大人の姿勢やあり方をさします。気持ちをわかってあげるといことは、その気持ちが起こった結果の行動を容認することだと誤解されがちですが、そうではなく、出来事に対して子どもの中で何らかの感情が起こったということを理解し、その気持ちに寄り添うことです。例えば子どもが「学校なんて大嫌いだ」と言ったとします。何かの理由があってその気持ちになっているのね、どうしてそんな気持ちになったんだろう?と関心を寄せて理解しようとすることが大事で、「学校に行かなくていい」と言うこととは別のことなのです。
“関心を向ける”ということは、子どもが何を考え、何を望み、何を感じているかに意識を向けてわかろうとすることです。子どもの主体性を尊重しながら、一方通行のコミュニケーションでなく双方のコミュニケーションを持つことを意味します。
親の期待や想定を押し付けたり、子どもになってほしい方向に操作的に仕向けたりしていないか、子どもの目線でその状況を理解しているか、というように常に自分のあり方に注意を払う必要があります。そうされて育っていない私達にとってはとても難しいことですし、努力がいることですが、子どもの自己肯定感を作ることにつながります。

質問2:スマホに夢中になる親のように、母子のかかわりがどんどんうすく、ドライになってきている感じがします。そして愛されたいと渇望する大人も子どもも多くなっているような印象を受けています。先生はどう思われますか?

私も同じ印象です。愛された実感がない子どもや大人が増えていることも実感しています。関心を向けられなくなった子ども達の将来を思うと不安になりますが、大切なことは、できていないことに対して批判的になるのでなく、どういうことで親がスマホにそんなに依存しなければならないのか、どういうことで子どもへのかかわりがうすくドライになってしまうのか、その原因を考えること。そして、そうせざるを得ない人が感じていることにまず共感的にかかわることではないかと思います。
これは私たちにとってとても難しい課題だと思います。子どもの将来が怖くなるあまり、子どもにしっかり向き合えない親に対してついつい裁きの気持ちが起こり、なかなか共感できないからです。しかし親が救われないと子どもも救われません。子どもは親の影響を一番大きく受けるからです。子育てを支援する人達がまずは親に対して関心を向けてあたたかい気持ちで寄りそうことから始めましょう。

質問3:「母親の仕事が愛着関係に与える影響について」
0歳、1歳などの低年齢の子どもを預けて仕事復帰する際に、どうしたら愛着関係に悪い影響を与えないようにできるでしょうか。

●子どもにとって生活の秩序は生きるか死ぬかの問題。それ故、子どもの生活の秩序やリズムを優先することを心がける。
幼児教育で有名なモンテソリーの保育園で園長をされた方が「子どもは肌感覚で理解される秩序によって心の安定や安心を得るので、‟秩序“は死活問題である」と言っておられました。このことへの理解は、子どもをケアするにあたってとても大切な基本的な姿勢であると思います。つまり、仕事に復帰するときは子どものこれまでの生活の秩序をどれだけ保ち、変えざるをえないことについてどのように子どもの準備をするか、ということにかかっていると思います。

A.生活の秩序をたもつ
子どもが肌感覚で理解する秩序とは自分の生活に落ち着いた雰囲気があり、予測可能な秩序があることです。具体的には、
1)子どもの起床時間、授乳または朝食の時間を一定にする。
2)子どもの世話をする人を一定にする:例えば同じ保育所、祖母、シッターなど。
3)一定の時間に子どもを迎えに行く。
4)子どもの夕食、風呂、就寝時間を一定にする
また日常生活をできるだけリラックスできる雰囲気にすることも大切です。
子どもは生活のリズムを壊されたり、自分の知っている秩序を乱されたりすると、大騒ぎをして泣き叫びます。ここが仕事を持つ母親が苦労するところです。なぜならば、急な残業や出張など、しばしば仕事によって日常生活の秩序は乱されるからです。どうしても日常と違うことをしなければならないときは、子どもがそのことを理解できるかできないかはさておき、子どもに何が起こるのか、話をして伝えておくことが大切です。たとえば「ママはお仕事で遅くなるからパパがあなたを迎えに行くよ。パパと一緒にお家で待っていてね」と話をしておきます。また、夫婦が互いの仕事などの状況を理解しあい、子どもの秩序を守るために協力しあう必要があると思います。

B.変化に対する子どもの心身の準備を心がける
胎児でも、赤ちゃんでも3歳児でも、親が何かをするときにその意図を子どもに説明するか、しないかで子どもの安定度合が違うことを50年ほどの臨床を通して学びました。赤ちゃんは話の内容がわかるというよりも、語りかける親の視線や、声のトーンから、親の心の余裕や、思いやりや関心を向けている姿勢が子どもに伝わり、子どもの心の安定を産む結果になっているのではないかと思います。
赤ちゃんに「ママはこれからお仕事へ行くの、その間あなたは○○さんと一日を過ごすのよ。ママは6時にはお迎えに来るからね」というような説明をすると子どもは一日ぐずらないし、扱いやすい子でいると報告を受けたことが何度もありました。何が起こるのかが説明されていると子どもは安定するようです。 生活のリズム・秩序の大切さを重視することと、子どもに説明することの二つを考えて、日常生活を送れば親子の愛着関係は安定し、仕事と子育てをうまく両立させることができるようになると思います。

●仕事の子育てのバランス、5歳くらいまでは子育てを優先する
できれば、少なくとも子どもの人格の基礎ができる5歳ぐらいまでは仕事より子育てを優先したいものです。そうすることで子どもの人格形成の土台ができて、後の子育てが楽になり、結果として親が仕事に専念しやすくなるのです。これは仕事を取るか子育てを取るかの二者択一ではなく、バランスの問題です。子どもができたら仕事をするな、という意味ではありません。母親から「あなたを育てるために私は仕事をやめたのよ」と言われて育ち、無意識のうちに、生まれてきたことへの罪悪感を持ち続けてきた人にもたくさん出会ってきました。仕事と子育てのバランスはとても難しい問題です。子どもの各発達段階で何が大事でどのようなかかわりが必要かを知り、そこに注意することで仕事を続けながら子育てをすることも可能になるのです。自分にとって何が大事で、それを守るために自分がどういう生き方を選択するのか、そしてその結果の責任を自分はとる、と思えるかどうか、個人の選択の問題です。

質問4:子どもに全身全霊でかかわるということ、共感的であることをどのように実現していったらよいですか。

理想的には全身全霊にかかわれればよいですが、必ずしもいつもできるとは限りません。できるだけ自分を空にして相手に注意集中をしましょう、ということです。自分が散漫になるのでしたら、五感瞑想(各感覚:触覚、聴覚、視覚、臭覚、味覚のそれぞれに3分ずつ意識を集中させる方法)のようなものをして注意力、集中力を磨くこともひとつの方法です。
共感的になるためには、自分の感情について調べて、自分に対する共感をたくさんされることだと思います。自分に対する共感することで共感の回路が開かれます。また自分の感情がわかればわかるほど、私たちは他人にも共感的になれます。面倒でも日々の意識の向け方が長期的には大きく自分を変えることになります。
くわしくは、私たちの「共感力講座・感情力編」でもお教えしていますので、ご興味があればご参加ください。