キスのおまじない

子どもが育ってゆく過程を見るのは微笑ましいものです。
私の孫のライデンが4歳ぐらいのころのことです。彼のママ(私の娘)に連れられて、長期出張に出かける前の私を訪ねてきました。ひとしきり一緒に遊んで別れぎわに私が「しばらく会えないね。おばあちゃんは淋しくなるよ」と言ったとたんに、彼は車に連れてゆこうとした母親の手を振り切って私のもとに走り寄って、私の右手をとって手のひらにキスをしてこんな歌を歌い始めました。「淋しくなったときに、いつもこのおててをほっぺにあててみてね。そうすると僕がおばあちゃんのことを大好きだっていうことを思い出すから。そうすると、心が温かくなって大丈夫になるよ。ライデンはおばあちゃんのことが大好きだから」

ライデンのやさしさに心を動かされた私は「この子はどこでこんなやさしいことを習ったの?」と娘に尋ねると、ある絵本を紹介してくれました。それはオードリー・ペン作「キスのおまじない(The Kissing Hand)」という絵本でした。この絵本は、初めて学校に行くことになったあらいぐまの子のチェスターがお母さんと離れて学校に行くのを嫌がったときに、お母さんあらいぐまが“キスのおまじない”を教えるお話です。お母さんあらいぐまは、チェスターの手の真ん中にキスをして「淋しくなったり、おうちが恋しくなったときにはいつもこのおててをほっぺに当ててごらん。そうしたら、ママがいつも一緒にいてくれるという温かい気持ちで一杯にしてくれるから」と言ってその愛をしみじみとチェスターの心にしみこませたのです。

私は心あたたまる思いで紹介された絵本を読みました。そしてこのキスのおまじないの習慣が日本のお母さんとこどもたちの間に広まったら、お母さんたちも、子ども達も淋しかったり、不安なときにどんなにか心が安らぐのではないかと思いました。

子どもが初めて何かに挑戦するときは不安でいっぱいです。そんなときにお母さんが自分のことを愛してくれていて離れていても心がつながっていることを思い出せたら勇気がわいて前に進むことができるのです。