災害時の“体の記憶”が蘇る

2016年は大きな地震が各地で起こり、何となく落ち着かない方も多かったのではないでしょうか。

突然襲ってくる大きな地震。
誰もがあまりにも突然のことでびっくりし、その場を何とか乗り切ることで精一杯でした。

体験したことのない振動、音。
身内の安否がわからない心配や悲嘆。
水や電気やガスのない生活、交通の断絶、通信の断絶。
そして、町中の不穏な空気感などが一気に襲ってきて、混乱と緊張の状態が長い間続きました。
その後徐々に復旧が進んで普段の生活に戻るにつれ、頭では「もう大丈夫」と思っても、衝撃的な恐怖と混乱、先の見えない不安の渦中にいたときの感覚は、人の中にまるで凍結したように残っているのです。

何年、何十年と、どんなに時間がたっても、地震や津波警報などの似た状況が刺激となり、出来事そのものは思い出さなくても、体だけは過去の衝撃体験時に引き戻されたようになって、当時の体験が無意識のうちに再現されることがしばしばあります。

例えば、2016年4月の熊本の地震の後や11月の福島の地震による津波警報の後、「何となく気持ちが落ち着かない」という方々に、心理療法CoreAccess9を受けていただいたところ、2011年の東日本大震災や1995年の阪神・淡路大震災当時の体の記憶(情動記憶)が戻っていたケースが多数ありました。しかしいずれも、ご本人はそんなところまで戻っているという意識は全くありませんでした。

このように、人間には意識的な記憶と意識にのぼらない体の記憶があります。

冬から春にかけて、震災関連の報道や情報番組が増えますし、気候も震災時と似ています。日ごとに増す寒さ、重たい雪、冷たい空気、あるいは、ふとサイレンの音に接したときに、何となく落ち着かなくなったり、漠然と不安になったり、体調がすぐれない。
また、目の前のことに集中できず、イライラしやすくなったり、疲れを感じやすくなったりすることもあります。

このような場合は、ご自身の心のケアが必要なときです。
心おきなく話せる相手をみつけて、話を共感的に聴いてもらうこともいいでしょう。
また、さまざまな情報や刺激の飛び交う町の喧騒や、ニュースなど事件性の強い情報から少し離れて、自然にふれたり、心地よいと感じる香りや音楽やマッサージなどで自分を癒す時間をもつようにしてみましょう。

この体の記憶が現在に影響を与える現象は、子どもにも同じように起こっています。子どもの場合は、自分の状態をうまく言葉で表現できないので、落ちつきがない行動や身体症状などとなって表れます。こういうときは、大人が注意深くみて、不安な気持ちを受けとめてあげましょう。

心のケアに携わるみなさんは、ご自分がかかわる方達に情動記憶がよみがえっている可能性があることを考慮しながら、お話を注意深く聴いてあげてください。