おかあさんは愛情のガソリンスタンド
人間の関係というものは相互関係、つまり人と人とが交わることで起こる関係です。赤ちゃんのうちは親にべったりくっついていた子どもが、だんだん身体をそらしておかあさんの顔を見るようになります。それまではただ一体感、自分とおかあさんの境界線がまったくない状態だったのが、「自分のほかにここに人がいる」ということに気づき始めます。
そのうちにおかあさんのひざからすべり落ちて足元で遊ぶようになると「自分とおかあさんとは離れた存在だ」ということに気づくようになるのです。赤ちゃんは不安なとき、こわいことがあった時には、母親のもとに必ず戻ってきます。“おかあさんがそこにいる”ことで安心を取り戻すことができるのです。母親の存在が子どもの安心・安定の糧なのです。それがないと子どもは不安定になりがちです。
たとえるなら、おかあさんは子どもにとって愛情を補給するガソリンスタンドのようなものです。遊びに行って疲れたら、また傷つくことがあったら、おかあさんの愛情を給油して癒される必要があるのです。そこでおかあさんの元に戻ってきてしばらくいて愛情を補給して、また遊びにいくということを繰り返しします。このように練習していくと、そのうちに「おかあさんは視界から離れても、消えてなくなるのでなく、いつも存在する」ということを頭のなかに浮かべられるようになります。
もしこの練習期間に、“そこにいる”はずのおかあさんがどこかに消えたらどうなるでしょうか?赤ちゃんが無心に遊んでいる間に、戻るべきおかあさんの姿が見えなくなってしまった―――赤ちゃんの母親に対する信頼は裏切られてしまうのです。
ですから、赤ちゃんがどんなに泣いても出かけなければならないときには、「ママは出かけるからね、○○さんと待っていてね」ときちんと赤ちゃんに話して断っておくようにしましょう。そして外出から戻ってきたときには「よくお留守番していたね、ママは戻ってきたよ」というように赤ちゃんに挨拶してあげましょう。
赤ちゃんはこのような体験を通してはじめて、お母さんは去っても、消えてなくならないことがわかり、おかあさんが実際にいなくても、しばらくの間であれば安定していられるようになります。このような安定した心が育つのは3歳から3歳半ごろと言われています。情緒の安定は短期間でできるものではなく、多くの体験と時間をかけて形成されるものなのです。
情緒が安定した子どもは、そばにおかあさんがいなくても、おかあさんを感じ取れる回路ができています。回路ができている子は、おかあさんが実際にそばにいなくても、おかあさんと体験した心の安定がある。自分自身で不安な気持ちを落ち着かせることができるようになり、幼稚園で泣きくずれるとか、どうにもならないということがなくなります。自分でできる。中には必死にこらえていて、おかあさんの顔を見たとたんに泣く子もいますが、だんだんそれができるようになっていきます。