野菜嫌いの子どもを変える魔法

子どもに野菜を食べてもらうために苦労をしている親は多いのではないでしょうか。
先日スーパーで見かけた親子のやりとりに、これなら子どもが自然に野菜が大好きになると思われるヒントがたくさんあったので紹介したいと思いました。

その日、5歳くらいの女の子と3歳くらいの男の子がお母さんと野菜売り場でお買い物をしていました。女の子が「ママ、これ前に食べたよね」と言うと、お母さんは「そうよ、これはあなた達がこの前『おいしい、おいしい』と言って食べたレインボー人参よ。ほら、オレンジ色の人参だけでなく、紫色、黄色、赤いのも、いろいろな色があるでしょ」と言いました。子どもたちがお母さんの説明を興味深そうに聞き、「また食べてみたいよ!」とそろって言いました。お母さんは「そうね、それでは今夜はスープにしてこれを入れてみようか?」と答え、日本人にはなじみのない野菜のルータベガス、パースニップ、アニスなどを子ども達にわかるように名前を言いながら選びにかかりました。ひとつひとつの野菜について「これはほっぺが落ちるほどおいしいのよ」などと楽しげに教えると、子ども達は「おいしいよ、おいしいよ」を繰り返し言いながら母親のまわりを飛びはねていました。さらに母親が「もうひとつ、素敵な色のお野菜がほしいね」とあざやかな紫色のカリフラワーに目をつけると、子ども達はそれを手にとって「ワァーきれい、これおいしいよ、おいしいよ」とはしゃいでいました。これらの野菜がスープに入って、それを食べるのを待ちきれないという雰囲気が伝わってくるほほえましい情景でした。

そのうちに子ども達はとなりの果物売り場に目をとめて「これはりんご、これはバナナだけど、これは、何かわからない、どうやって食べるの?」と母親に質問をし始めました。その母親は丁寧に一つ一つの果物の名前や食べ方について説明をしているのです。例えば「これはオレンジの赤ちゃんみたいだけれど、“きんかん”と言ってジャムにするとおいしいのよ、焼きたてのパンにのせて食べたら幸せな気持ちになるよ、今度作ってみたい?」というように子どもの新しい食材に対する興味を満たし、さらに食の楽しさを空想させながら、子ども達を料理の世界へと誘っているのです。そばで話を聴いているだけでも一緒に料理をして食事をしたくなります。母親と楽しんで「食材を選ぶ」、「料理をする」、「食べる」という体験は後にこの子たちの大きな心の財産になって残るのではないでしょうか。

夕食のお買い物という日常的な出来事を私たちは機械的にしがちではないでしょうか。しかし、この母親は、子ども達とのやりとりを楽しみながら、子ども達の好奇心やイマジネーションを膨らませ食生活の楽しさをたくみに教えているのです。そしてこの体験は短い時間でありながら、子ども達の心に刻まれる楽しい特別な時間として残ってゆくのです。

私は感心すると同時にすっかり魅せられました。
こんな風に食生活や野菜を紹介されたら子どもも何の抵抗もなくごく自然に野菜好きになるかもしれないと思いました。